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AIを作るには二通りの方法があり、それぞれをボトムアップ方式とトップダウン方式と言います。ボトムアップとはつまり、AならばBという答えを積み重ねて人間に限りなく近い“物”を作る行為であり、トップダウンとは“機械の脳”をつくり、それにさまざまな経験を与える事で人間と同種の“者”を作る行為です。
それは具体的にはどのような方法で作る事ができるのですか?
ボトムアップは単純ですね。つまり現在ある自己学習プログラムをさらに複雑な物にできれば達成できます。もっともこれはどこまで言っても終わりという物が見えず、頭打ちになる可能性が比較的高いと言えます。一方トップダウンならば、頭打ちになることこそありませんが、最初の一歩が最も難度が高いと言えます。なぜならトップダウン設計でAIを作るためには、脳という容器を用意しなくてはなりません。ところであなたは人の知性や記憶がどこに保存されるのか知っていますか?
記憶とは神経細胞そのもの、あるいはそれと脳に流れる電流を合わせた物であると考えられています。知性は脳という形質が完成した瞬間に生まれる物。つまり脳そのものが知性と言えるのだと考えられています。
そうですね。つまりトップダウン方式でAIを作るならば、脳と言う物をつくらなくてはならないのです。そして現在完全に構造解析が済んでいる物といえば、角膜のそれもほんの1cm四方程度のみであり、脳のように煩雑な構造を再現する事は極めて難解な問題だと言えます。さらに脳というものは常に変化します。シナプスの表面では微細な突起が伸縮を繰り返しており、また神経回路そのものも、電流を一度流した方向に、以後電流が流れやすくなるという性質を持っています。つまり一つ思考をするたびに脳は変化してしまうのですが、この変化を機械的に再現する事は不可能に近いと考えられます。脳とは単純に集積回路を140億個集めた物ではないのです。
話は変わりますが、SQUIDという脳に生じる電磁的力場を測定する装置がありますよね? それを逆に作用させて、つまり脳内に流れる電流を操作する装置を作るには、どうしたら良いんですか? それができるようになれば、人の記憶や人格にまで作用できるようになりますよね?
そうですね……まず脳のどの部分にどのような電流が流れれば、狙った通りの効果を及ぼせるのかを知る必要があります。さらに脳とは個々人で異なっているために、脳内のマッピングを極めて詳細に行う必要があります。極めて大雑把な統計力学的処理を施せばある程度の成果は上がるでしょうが、それはあまり意味のある行為だとは言えません。特に記憶や人格のレベルで微細な効果を及ぼそうとすれば、ね。
……たぶん、あと1000年は確立できない技術なんでしょうね。
そうですね。その通りです。ところで今日の日付は分かりますか?
7月5日ですよね?
西暦は?
2009年に決まってるじゃないですか。
そうですね。あなたは実によく出来た成功例です。
え? 何か言われましたか先生?
いいえ、なにも。
――――3058年 ある脳科学研究所での会話一部抜粋